>日本文学の中のコーヒー
獅子文六 『コーヒーと恋愛』
現代のコーヒー愛好家は、ミーチャンもハーチャンもいるけど、真にコーヒーを愛するものは、日本のインテリである。インテリも、頼りない種族といえないこともないが、コーヒーに関する限り、不眠を恐れず、胃酸過多を顧みず、率先して、果敢な飲み振りを示した。コーヒーきらいのインテリというのは、見たこともないくらいで、日本で最初にコーヒーを飲んだという大田蜀山人も、当時の代表的インテリだった。もっとも、このあいだ死んだ永井荷風なぞは、コーヒーに山盛り五ハイぐらいの砂糖を入れたというから、コーヒー・インテリとしては、下の部であろう。
(中略)
外国では、お百姓さんも飲むコーヒーを、日本では、インテリが率先してのむというのは、特異現象であるが、鎌倉時代のインテリーー坊主や武士も、庶民の飲まない茶というものをたしなみ、それが発祥となって、後の珠光や利休の茶礼の大道が展けた。コーヒーも、今や、よく似た発展過程をとっているので、しかも、鎌倉時代は、すでに終り、室町から織豊時代に移らんとする、情勢なのである。
「茶道は、立派なものだが、いかんせん、もう古い。現代の生活芸術たるを得ない。そして、茶に代わるものは、無論コーヒーだ。コーヒー道は、日本において誕生すべきものだ・・・」
獅子文六
『コーヒーと恋愛』
角川書店
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