>日本文学の中のコーヒー

森本哲郎 「ぼくの旅の手帖ーまたは、珈琲のある風景ー」

 カフェというと、ぼくにかには、きまって冒頭の、あのヘミングウェイの姿が浮かんでくる。僕は、いつも「サン・ミシェル広場のいいカフェ」にいた。」「それは、いいカフェだった私はコート掛けに私の古いレインコートをかけて乾かし、ベンチの上の方の帽子掛けに、自分のくたびれて色のさめたフェルト帽をかけ、カフェ・オ・レを注文した。ウェイターがそれを持ってくると、私はコートのポケットからノートを出し、鉛筆を取りだして、書き始めた・・・・・」(『移動祝祭日」)

 東京に、そんなカフェはないものかなあと、ぼくはいつもそう思う。やたらにボリュームをあげた音楽が充満している東京の喫茶店の一隅にすわりながら、そして、となりでしきりに用談しているらしいせわしない会話に耳をとられそうになりながら。

ぼくは頬杖をつき、目を閉じ、コーヒーを一口すすつては、これまで回ってきた国々の『気持ちのいいカフェ」を思い返すのである。

森本哲郎
「ぼくの旅の手帖ーまたは、珈琲のある風景ー」
ダイヤモンド社


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